a madman's diary

狂人日記

ひとり

母はその人を常に「お華の先生」と呼んでいた。お華の先生の「おはな」のイントネーションは、劇団ひとりの「ひとり」と同じ。

真面目で無愛想で偉そうで、恐い顔した美人の母は、田舎に嫁いできて全く周りに馴染まず、もちろん家の人たちとも上手くいかなかった。記憶の母は、長い黒髪に優雅なパーマで、赤い口紅と、香水の匂いがして、結婚式のときの写真と同じように、いつも奇麗でぶすっとしている。

そんな彼女は赤ちゃんの私を連れて、週に一度いそいそと田舎の小さな池坊(いけのぼう)教室へ通った。母が活けている間、幼い私はお華の先生のお膝に預けられていた。

私は花よりも、鋏と剣山が好きだった。