a madman's diary

狂人日記

ウィーン

実家から徒歩十秒のところに住んでいる、生まれた時からの幼なじみは性根の優しい、素敵なひとである。

おじさんもおばさんも、田舎のふつうの日本人なのに、どういうわけだか、幼なじみは西洋人風の顔立ちに、栗色の巻き毛の、ウィーン少年合唱団だった。

コンプレックスも向上心も持ち合わせなかった彼は、適当に勉強をし、適当に大学を卒業し、地元に戻ってくると、自宅から徒歩五分のところにある小さな郵便局に就職した。

幼稚園のアルバムに載っている彼の将来の夢には、

「しんかんせんになりたい」

とある。いつからなのか、彼に一生追いつけないことを知ったのは。

「郵便局の可愛いお兄さん」として母親世代の心をさらった彼は、さいきん昇進して、別店舗へ移ったということである。

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スウィング

オージービーフのステーキとフライドポテトとイカスミ・スパゲティとペペロンチーノとピザ。

私たち家族はいつも店の角(すみ)の広いテーブルに着いてそれらを頼んだ。その薄らよごれた片田舎のスナック《スウィング》は、市立図書館の隣りにあったせいか、マスターにはどこか「公序良俗」という言葉が似合った。

父の隣りに座る私は「御嬢さん」と呼ばれて、子供特有の細いからだでステーキをほおばり、桃のジュースを飲んだ。車を運転する父は飲まなかったし、女の子のすらりとした健康の前で、他のお客のおじさんたちは「悪い事はできない」と照れて、おとなしくしている。

マスターは、私が東京の大学に通っているあいだに亡くなって、お店はもうない。

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