a madman's diary

狂人日記

ウィーン

実家から徒歩十秒のところに住んでいる、生まれた時からの幼なじみは性根の優しい、素敵なひとである。

おじさんもおばさんも、田舎のふつうの日本人なのに、どういうわけだか、幼なじみは西洋人風の顔立ちに、栗色の巻き毛の、ウィーン少年合唱団だった。

コンプレックスも向上心も持ち合わせなかった彼は、適当に勉強をし、適当に大学を卒業し、地元に戻ってくると、自宅から徒歩五分のところにある小さな郵便局に就職した。

幼稚園のアルバムに載っている彼の将来の夢には、

「しんかんせんになりたい」

とある。いつからなのか、彼に一生追いつけないことを知ったのは。

「郵便局の可愛いお兄さん」として母親世代の心をさらった彼は、さいきん昇進して、別店舗へ移ったということである。

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ひとり

母はその人を常に「お華の先生」と呼んでいた。お華の先生の「おはな」のイントネーションは、劇団ひとりの「ひとり」と同じ。

真面目で無愛想で偉そうで、恐い顔した美人の母は、田舎に嫁いできて全く周りに馴染まず、もちろん家の人たちとも上手くいかなかった。記憶の母は、長い黒髪に優雅なパーマで、赤い口紅と、香水の匂いがして、結婚式のときの写真と同じように、いつも奇麗でぶすっとしている。

そんな彼女は赤ちゃんの私を連れて、週に一度いそいそと田舎の小さな池坊(いけのぼう)教室へ通った。母が活けている間、幼い私はお華の先生のお膝に預けられていた。

私は花よりも、鋏と剣山が好きだった。

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