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a madman's diary

狂人日記

桃ノ木

田舎の実家で犬を飼っている。もうだいぶ婆さんで、去年の正月死にかけた。いい歳なので、家族みんな半ば諦めていたのだろう。自然と「死んだら、どこに埋めるか」という話になった。

「しょせんは"犬畜生"なので"人様"とおんなじという訳にはいかないが、それでも可愛がっていた家族なので、せめて犬が生前好んでいた場所に埋めてやろう」ということだった。誰もが黙っていた。と、父が神妙な面持ちで「裏の桃の木の下がいいだろう」と切り出した。

裏庭の桃の木は、幼少の時分、弟がおやつに食べた桃の種を埋めたのが大きくなったものである。果実こそできないが、毎年かわいらしい花をひっそりと豊かに咲かせていた。

「あれはかならず、あの桃の木の下でウンコをするんだ。きっとあそこが好きに相違ない」

祖父、祖母、母が一同に異を唱えた、「そういう意味ではないのではないか」。しかし父は「桃の木の下」の一点張りである。そうこう家族がもめているあいだに、犬はケロッと元気になり退院した。今日も、あのしっとり苔(こけ)むした桃の木の下でウンコをしているはずである。

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